
大活躍中!現役フリーランス通訳者の履歴書
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夢は映画業界!新潟から単身アメリカへ
―高校卒業後にアメリカに留学されたと聞きました。もともと英語を使う仕事を志していたのですか?
池田:いいえ!むしろ高校時代まで英語は大の苦手で、まったく話すことができませんでした。英検も3級しか受かっていません。ただ、ハリウッド映画が大好きで、自分も映画に関わる仕事がしたい一心でアメリカの大学への進学を考えるようになりました。高校3年になる頃に両親に「アメリカの大学に行かせてくれ」と頼んでみると、意外にもすんなり許してくれました。日本の大学受験のために勉強をする必要がなくなり、その空いた時間で英語をたくさん勉強しました。
その後は、1991年に高校卒業と同時に単身、渡米してカリフォルニアの語学学校を経てコミュニティカレッジに留学しました。当時は日本人の留学生が多かったので、日本人同士で固まってしまうと英語が上達しなくなると思い、日本人以外の留学生やアメリカ人の方と交流するよう心がけていました。何とか英語で授業が理解できるようになったのは、1995年にUCLAに編入した頃からです。
1997年にUCLAを卒業後はトレーニングビザを取得して、日系の銀行で1年間勤務。1998年に、日本での就職を目指して帰国しました。その当時は自分の英語力に自信を持っていましたが、今考えると、とてもビジネスレベルの英語力ではありませんでしたね。ネイティブの友人たちが盛り上がっているのに、自分だけ状況がわからずに「??」となったことが何度もありました。
帰国後、就職活動に挫折。転機はあの「夢の国」での通訳経験
―UCLA卒業という経歴もあって、就職は引っ張りだこだったのでは?
池田:いいえ、まったくそんなことはなく、就活は厳しかったですね。
インターネットも今みたいに普及していない時代なので、図書館でジャパンタイムズを見て応募したのですが、なかなか面接までたどり着けませんでした。ハローワークで、通訳・翻訳を派遣している会社を紹介され、Excelの入力などがメインの業務にアルバイトとして採用されました。アメリカにいた頃、トレーニングビザで日系の銀行で働いていた時に、通訳をやっている人がいて、こういう仕事もあるよと聞いたことがあったので、アルバイトをしながら、通訳の学校に通うことにしました。
そしてアルバイトをしていた会社の通訳部に「通訳学校に通っている」と、積極的にアピールしていたところ、当時進行中だった千葉県内の大規模テーマパークの建設プロジェクトに通訳として派遣されることになりました。
―それまで通訳経験はなかったわけですよね?不安はありませんでしたか?
池田:はじめはわからないことだらけですけど、毎日同じような現場に行くので、しばらく頑張れば何とかなりますよ。それとその現場が「失敗を許してくれる現場」だったことが大きいですね。通訳の現場には絶対に失敗が許されないシリアスな現場と、多少の失敗は多めに見てくれる現場とがありますが、その現場は後者で、通訳中にわからないことがあれば気軽に質問ができ、誰にも「そんなことも知らないのか」と怒られるようなことはありませんでした。だから、通訳として働きながら語彙や言い回しの知識も増えて、すごく成長できたんですよね。この経験があるので、今も通訳を目指す人には、「いきなりシリアスな現場を目指すのではなく、まずは失敗を許してくれる、始めは訳せなくても次の時には、成長して訳せるようになればOKとしてくれる現場で経験を積もう」とアドバイスするようにしています。
―とはいえ、プロの通訳者となって、自分の英語はまだまだと感じることはありませんでしたか?
池田:自分の性格かもしれないですけど、留学時代も通訳者として駆け出しの頃も、今振り返ると、英語はまだまだだったんですけど、当時はできていると思い込んでいました。そうしたポジティブ感は、すごく重要だと思います。日本人って英語が苦手な人って多いと思うのですが、英語ができる人って自信過剰というか、ポジティブに考える方が多いような気がします。言葉に不安を覚えたり、「自分がまだまだだな」と思っているとあまり伸びないですね。小さいお子さんと同じで褒めてあげることで伸びていくと思うんです。英語は自分がダメとは思わずに勘違いでもいいから前向きに取り組んで、場数を踏むことも大切です。
―なるほど。他に通訳をする上で意識していることはありますか?
池田:相手の欠点や癖に捉われないことですね。「この人は訛っている」、「早口過ぎる」という欠点に意識を奪われ苦手意識を持つと、特に同時通訳の場合は、もうその時点で話の流れに置いていかれてしまいます。そして、最終的に「あの人は訛っているから、早口だから」と、できないことを相手のせいにしてしまう。私はどんな現場でも、訳すことを絶対あきらめないように意識しています。
インハウス通訳としてキャリアアップ。「頼られる存在」になるための工夫とは?
―その後はインハウス通訳として何度か転職されてますね。何かきっかけがあったのですか?
池田:テーマパークでの派遣通訳の仕事が楽しかったので、できることならずっと続けたかったのですが、予算の関係もあり、テーマパークと私が所属していた派遣会社との契約が打ち切りになりました。ただ、この時期に世界的に名の知られたテーマパーク関連の仕事をしたことは、私の通訳としてのキャリアにおいて、大きな意味がありました。この時の経験を活かして、次に大手通信会社の仕事に就くことができ、インハウス通訳の実績を伸ばすことができたからです。通信会社では社長室付の通翻訳者として約5年間勤務し、その後に外資系スポーツ用品メーカーでも約半年間勤めました。
―インハウスの通訳のお仕事は、いかがでしたか?
池田:周りの人とチームで働くことにより達成感が得られるというやりがいは、フリーランスではあまり感じられない経験でした。そして自分は部署付きの通訳者だったので、翻訳仕事ばかりの時間も多かったのですが、腐らずに自分から他部門の通訳業務にアサインしてくれるようにお願いして、経験を積むチャンスをつかみにいきました。他部門なのでわからないことも多いしプレッシャーもありますが、その分必死に取り組むのでスキルアップになりますし、インハウスだけれども社内フリーランスみたいな感じで疑似的な経験ができて、感謝もされました。直接そういったフィードバックがもらえるのもインハウスならではですね。
30代でフリーランスに。「売れっ子」であるために心掛けていることは?
―その後、フリーランス通訳として独立されました。何かきっかけがあったのですか?
池田:インハウスで仕事をしていると自分が徐々に認められ、築き上げたものが、組織の事情や派遣先が変わる度に、またイチからやり直しということがありますよね。であれば、実力で仕事を進めていくことができるフリーランスになろうと決めました。
―フリーランスになると、仕事の量や収入が不安定になりがちです。不安はありませんでしたか?
池田:当時はあまり考えていなくて、なんとかなると思っていました(笑)。ただ、ちょうど子供が生まれたタイミングでもあったので、最初は声をかけてもらえる仕事は何でも引き受けるようにしていました。一つの仕事で気に入ってもらい、また呼んでいただくということの繰り返しで、依頼件数が増えて、収入も安定するようになりました。
フリーランスは1回1回その場限りなので刺激があります。一方でインハウスは先程も伝えましたけど、チームで働く達成感を得られるのでそれぞれ良さがありますね。そのためフリーランスとインハウスの二つで甲乙をつけるということではないと思っています。
通訳講師の経験が、さらなる成長の糧に
―第一線で活躍し続けるには英語力のブラッシュアップも欠かせないと思います。どんなトレーニングを実践していますか?
池田:今も実践しているのは、ポッドキャストを聞きながらのシャドーイングです。通訳をしていて、意外と難しいのが「雑談」のようにカジュアルに交わされる会話です。学生時代にネイティブの友人たちが談笑して盛り上がっているのが理解できなくて悔しい想いをしましたが、今も、一番難しいのはネイティブの普通の会話だと思っています。そのため、いつもポッドキャストで普通の人たちが雑談しているような番組を選んで聞き、集中力が切れたら頭の中で、シャドーイングをするようにしています。
実は、この方法を始めたのは、一時期、通訳講師をしたことがきっかけでした。
―講師の仕事をしたのはなぜですか?また、講師の仕事にはどんなメリットがありましたか?
池田:講師の仕事は国内の通訳養成学校のほか、ミャンマー政府の通訳養成プログラムでも経験しましたが、非常に大きなメリットがありました。最初に申し上げた通り、もともとは私自身すごく英語が苦手だったので、英語が得意な方やバイリンガルの方などよりも、英語ができない生徒の皆さんの気持ちがよくわかるんですよね。自分自身が若いころに「頑張っても英語ができない」という経験をしているからこそ、できない方の気持ちがよくわかるというか・・・。それで、生徒さん一人ひとりに話を聞いてそれぞれに合った練習法を提案していました。生徒さんとのやり取りが続いていく中で、自分でもその練習法を取り入れたこともあります。先ほどのポッドキャスト+シャドーイングのように効果のあった方法もその一つで、今も実践し続けています。
―今のお仕事の状況や目標を教えてください。
池田:ありがたいいことに、安定して様々な業界のクライアントから通訳のご依頼をいただいています。コロナ禍を機にオンライン通訳が定着し、自宅に居ながらにして仕事が受けられるようになったので、最近は1日に数件を受注することも珍しくないですね。自宅からできるので通勤の疲れもないですしね。また自宅のため、仕事の合間の休憩はリラックスできるので快適に仕事ができています。
今後の目標については、英語力に関しては、できるだけネイティブに近づこうという努力は続けています。おそらく永遠の課題ですし、一生追いつけないとは思いますが頑張る価値のあるものだと思っています。
最近はよくAIの登場で通訳の仕事がなくなるという話を聞きますが、私はむしろ、通訳者の人手不足でAIを活用せざるを得なくなる事態を心配しています。
文脈読んで伝える、どういう言葉で伝えたら相手を説得させられるかは、やはり人間の通訳者にしかできないことだと思います。仮にAIが人間の通訳者にとって代わっても、通訳技術や言語能力を上げることは無駄にはならないでしょうし、その能力が備わっていれば、通訳以外の仕事にも対応できるのではないでしょうか。
―池田さん、ありがとうございました!
まとめ
学生時代に英語が不得意でも、ポジティブな気持ちを失わずに学習に取り組めば通訳として活躍できるチャンスはある。
失敗しても、次の機会に成長して訳せればOKとしてくれるインハウス通訳の職場を見つけてスタートするのがオススメ。インハウス通訳では周りの人とチームで働き達成感が得られ、自分から積極的に動けば未経験の領域への対応スキルや経験を習得することができる。フリーランス通訳では実力で仕事を進めていくことができる。いずれも通訳者のキャリアとして、それぞれ良さと意味がある。
文脈を読んで伝える、どういう言葉で伝えたら相手を説得させられるかは人間の通訳者にしかできないこと。通訳技術や言語能力を上げることは無駄にはならない。
「教える」という経験は、自分のスキルアップにも役立つ。講師時代に見つけた、ポッドキャストを聞きながらのシャドーイングなど効果のあったトレーニング方法は今も続けている。
▽取材協力および記事監修者
池田尽 通訳者歴:25年
高校卒業後、渡米しUCLAを卒業。通訳学校での訓練を経て通訳者デビューし
複数の有名大手外資企業でインハウス通訳者として勤務した後、フリーランスへ転向。
ヤンゴン大学にてミャンマー政府要請により通訳養成プログラム講師、および通訳学校ディプロマットの通訳コース講師を務めた実績もあり。
現在もIT、金融、国際会議、大型イベントなど幅広い分野で活躍、総じて通訳エージェント・クライアントからの評価も高い、現役のプロ通訳者。

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